ガビチョウについて

外来種のガビチョウ (Garrulax canorus) に関するこれまでの知見(分類・分布、生理生態)をまとめたページです。
なお、書籍や論文から収集した情報が中心となります。

1. 分類・分布

1-1. 分類

ガビチョウは、スズメ目チメドリ科に属する外来種(移入種)で、原産地は中国南部および東南アジア北部である。
近縁種はヒゲガビチョウ、カオグロガビチョウ、カオジロガビチョウなどで、いずれも日本で野生化している(川上・叶内 2012)。

2005年に施行された「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律(略称:外来生物法)」において、ガビチョウは第一次指定種として特定外来生物に指定されている(フリー百科事典・ウィキペディア日本語版 2014b)。

1-2. 国内の分布

これまでに、九州北部(福岡・大分北部・熊本北部)、関東(神奈川・東京・埼玉・群馬)、中部(山梨県大月・静岡・長野)、東北(福島)の各地で野生化した個体が記録されている(川上 2002a; 堀田ほか 2011)。

長野県では1995年に佐久市で初めて発見されて以降、佐久地域・諏訪地域で分布が確認されている。
2000年代に入ると伊那谷でも生息が確認され、伊那谷南部でも2019年から急速に記録が増えている(米山 2020)。

神奈川県においては、1995/04/18に藤野町名倉で初めて記録され、1995/09には津久井町鳥屋で繁殖が確認されている(日本野鳥の会神奈川支部編 2007)。

山口(2000)は、相模湖周辺から丹沢山地およびその周辺の丘陵地、箱根山地、大磯丘陵まで分布していると報告している。

神奈川県相模原市緑区(旧、相模湖町)では、個体数が増加傾向にあることが疑われている(田淵 2010)。

横浜市南部においては、ガビチョウの確認率が4年ほどの間に90%超にまで増大し、その後も90%超の確認率が続いていることから、森林内の普通種として定着したと考えられる(大浦 2016)。

横浜市南部では、孤立した緑地の多くでガビチョウが確認されなかったが、大規模緑地の縁辺部では新たに生息が確認された。
このため、ガビチョウは最初に大規模な緑地に定着した後、その緑地を伝って周辺部へと分布を拡大させていくと考えられる(小嶋 2015)。

1-3. 海外の分布

ハワイ諸島には20世紀初頭に導入され、標高1200m以下の森林で優占種となっている。(川上 2002a)

シンガポールでも移入種となっている(Castelletta et al. 2000)。
※シンガポールでは日本のメジロも移入種となっている。

2. 生理生態

2-1. 生息環境

下層植生の発達した森林を好む (川上 2002a)。

広葉樹林・草地・針広混交林(=広葉樹林+針葉樹林?)・針葉樹林(=スギ・ヒノキ林?)・低木林・舗装道路を含む環境でラインセンサスを行った結果、最も個体数密度の高い環境は広葉樹林、2番目が針葉樹林、3番目が針広混交林であった。
また林相に依らず、ガビチョウは下層植生が発達している場所に生息しており、在来種のウグイスやアオジが好む環境と共通していた (石川 2010)。

ガビチョウの分布域は拡大し続けているが、本種の分布拡大が標高条件と積雪によって制限されている可能性がある(Kawakami&Yamaguchi 2004)。

2-2. 渡り

渡りは行わない(川上 2002a)。

神奈川県秦野市の弘法山公園では、シジュウカラ・メジロ・ハシブトガラスなどと同様に、ガビチョウが一年を通じて観察される「留鳥」となっている(吉田ほか 2010)

九州北部では、山地において冬期の生息情報が得られず、越冬期には低標高地へ漂行している可能性が指摘されている(佐藤 2000)。

2-3. さえずり

さえずりはクロツグミに似て複雑であり、周年聞くことができる。
また、ウグイスやサンコウチョウ、イカルなど他種のさえずりの鳴き真似をすることもある。(川上 2002a; 川上 2002b)

台湾のガビチョウと中国本土のガビチョウの囀りを、素音(note)、フレーズ(syllable)、囀り(song)、構文(syntax)のレベルで比較した。
その結果、ガビチョウの囀りの地理的変異は、主にフレーズレベル以上で起きていた。
さらに、本土のガビチョウの囀りは、台湾のガビチョウよりも複雑であった。(Tu&Severinghaus, 2004)

2-4. なわばり

繁殖期には強いなわばり性を示すが、非繁殖期は小群を作る(川上 2002a)。

2-5. 繁殖

営巣場所は低木の枝上や地上、草むらの中であり(川上 2002a; 川上 2002b)、イワガネゼンマイとミツデカエデの幼木にまたがって巣がかけられていた記録もある(藤井・四角目 2005)。

八王子市での観察結果では、営巣場所は地上から90cm~208cmの高さで、これまでの報告と比べて高い場所であった。
また、営巣樹種はアオキ・ヒサカキ・ハマヒサカキ・ツバキ・サザンカ・カナメモチ・ドウダンツツジ・アズマネザサであった (宮澤・鈴木 2010)。

2-6. 採食と食物

昆虫では鱗翅目や甲虫目、植物ではクサギ・ミズキ・シラカシ・サクラ類の果実を採食していた。
採食行動は、地上で餌をついばむ、あるいは落ち葉を掻き分けて餌を探すというもので、大型ツグミ類と同様であった(石川ほか 2010)。

動物性食物ではクモ類・セミ成虫・鱗翅目成虫および幼虫・ミミズ類・ニホンカナヘビ・カエル幼体を採食していた。
植物性食物では、ヒメコウゾ果実・ヤマグワ果実・サクラ果実・コナラ種子を採食していた (宮澤・鈴木 2010)。

2-7. 寄生虫

体表からシラミバエ類(計2種)とマダニ、小腸から条虫と鉤頭虫、体腔から吸虫が得られた。
また、シラミバエの内1種については、ガビチョウの移入に伴って日本に侵入した可能性がある(吉野ほか 2003)。

3. その他

3-1. 種名の由来

ガビチョウの名は、目から後方の白い眉のような羽毛が由来となっている(川上 2002b)。

ガビチョウの英語名は、中国名の「蛾眉」に由来する「Hwamei」となっている(フリー百科事典・ウィキペディア日本語版 2014a)。

引用文献

  1. Castelletta, M., Sodhi, NS. & Subaraj, R. (2000) Heavy Extinctions of Forest Avifauna in Singapore - Lessons for Biodiversity Conservation in Southeast Asia. Conservation Biology, 14(6): 1870-1880. [PDF]
  2. 藤井幹・四角目勝二 (2005) 神奈川県におけるガビチョウの営巣記録. 神奈川自然誌資料, 26: 73-74. [PDF]
  3. 川上和人 (2002a) ガビチョウ -低山で急増する中国産飼養鳥-. 日本生態学会編, 外来種ハンドブック. pp.87. 地人書館, 東京.
  4. 川上和人 (2002b) 移入種ガビチョウの野生化(トピック(動物)). 樹木医学研究, 6(1): 27-28. [DOI]
  5. Kawakami, K. & Yamaguchi, Y (2004) The spread of the introduced Melodious Laughing Thrush Garrulax canorus in Japan. Ornithological Science, 3: 13-21. [DOI]
  6. 川上和人・叶内拓哉 (2012) 外来鳥ハンドブック. 80pp. 文一総合出版, 東京.
  7. 堀田昌伸・大原均・齋藤信・杉山要・北澤千文 (2011) 長野県における特定外来生物 (鳥類)、ソウシチョウ Leiothrix lutea とガビチョウ Garrulax canorus の生息状況. 長野県環境保全研究所研究報告, 7: 19-22. [PDF]
  8. 石川悠・植田麻里絵・桑原千尋・佐藤誠三・安藤元一・小川博 (2010) 都市緑地における外来鳥類ガビチョウ(Garrulax canorus)の利用実態. 日本鳥学会大会講演要旨集, pp.203.
  9. 宮澤絵里・鈴木惟司 (2010) 八王子市南大沢における移入鳥類ガビチョウの生態記録. 日本鳥学会大会講演要旨集, pp.202.
  10. 日本野鳥の会神奈川支部編 (2007) 神奈川の鳥 2001-05 -神奈川県鳥類目録V-. 196pp. 日本野鳥の会神奈川支部, 横浜.
  11. 小嶋紀行 (2015) 横浜市南部における外来種ガビチョウの分布. 神奈川自然誌資料, 36: 69-72. [PDF]
  12. 大浦 晴壽 (2016) 確認率を用いた横浜自然観察の森における移入種ガビチョウGarrulax canorusの定着経過と囀り活動の季節変動の検証. BINOS, 23: 37-41. [DOI]
  13. 佐藤重穂 (2000) 九州北部におけるガビチョウGarrulax canorusの野生化. 日本鳥学会誌, 48: 233-235.
  14. 田淵俊人 (2010) 神奈川県相模原市緑区内郷地区(旧相模湖町)の野鳥(2000年~2010年). BINOS, 17: 7-16. [DOI]
  15. Tu, H-W. & Severinghaus, L.L. (2004) Geographic variation of the highly complex Hwamei (Garrulax canorus) songs. Zoological Studies, 43(3): 629-640. [PDF]
  16. 山口喜盛 (2000) 神奈川県におけるガビチョウの野生化について. BINOS, 7: 43-50.
  17. 米山富和 (2020) 伊那谷におけるガビチョウの記録. 伊那谷自然史論集, 21: 49. [DOI]
  18. 吉田裕樹・石川康裕・佐藤友哉・馬場好一郎・藤吉正明 (2010) 秦野市弘法山公園において2006年から2008年までに観察された鳥類. 神奈川自然誌資料, 31: 75-79.[PDF]
  19. 吉野智生・川上和人・佐々木均・宮本健司・浅川満彦 (2003) 日本における外来鳥類ガビチョウ Garrulax canorus およびソウシチョウ Leiothrix lutea (スズメ目:チメドリ科)の寄生虫学的調査. 日本鳥学会誌, 52(1): 39-42. [DOI]
  20. フリー百科事典・ウィキペディア日本語版 (2014a) 「ガビチョウ」. Online. Available from internet: http://ja.wikipedia.org/wiki/ガビチョウ (downloaded on 2014-01-07).
  21. フリー百科事典・ウィキペディア日本語版 (2014b) 「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」. Online. Available from internet: http://ja.wikipedia.org/wiki/特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律 (downloaded on 2014-02-05).