三浦半島の森林植生

これまでの調査結果や文献から、三浦半島の森林植生の概要をまとめてみました。

三浦半島の典型的なスダジイ林

自然林

スダジイ林

三浦半島の丘陵地の尾根や斜面上部で見られます。
スダジイ林が広い面積で残されている場所は少なく、小さなパッチ状の林分として残されていることが多いです。

また、スダジイ林といってもスダジイが優占している林分だけでなく、アカガシが優占している林分が多いのも特徴的です。 スダジイとアカガシの他には、タブノキ、モチノキ、ウラジロガシなどの常緑樹や、コナラなどの落葉樹が高木層・亜高木層で混生することが多いです。

低木草や草本層はあまり発達しておらず、特に草本層はヤブラン、ジャノヒゲ、ヤブコウジ、ヤマイタチシダなどが疎らに見られるような林分が多いです。

タブノキ林

三浦半島の丘陵地の平尾根や斜面下部、海岸沿いなどで見られます。
スダジイ林と同様に広い面積で残されている場所は少ないですが、海岸沿いで人が立ち入りにくい場所にはタブノキが優占する林分が比較的残されていると思います。

高木層はタブノキに加えてシロダモが混生していることが多く、その他にムクノキやハゼノキ、ミズキ、カラスザンショウなどの落葉樹が混生していることもあります。

スダジイ林と比べて低木草や草本層が発達していて、特に低木草はアオキやシロダモ、アズマネザサなどが繁茂している林分が多いように感じます。
草本層ではイノデ類やベニシダ、ミゾシダ、ヤブソテツ類、クマワラビ類などのシダ植物が出現することが多いです。

さらにテイカカズラやキヅタ、ビナンカズラ、ツルマサキなどのツル植物が高木層や亜高木層に到達していることも多く、スダジイ林と比べて鬱蒼とした林に感じられます。

コナラ林

三浦半島のどこでも見られますが、コナラやクヌギが主体の「典型的な雑木林」とは少し異なっています。

高木層はコナラやイヌシデ、エンコウカエデなどに加えて、エゴノキ、ミズキ、マルバアオダモ、オオシマザクラ、ハゼノキ、カラスザンショウなどの落葉樹や、スダジイ、アカガシ、アラカシ、タブノキ、シロダモなどの常緑樹も混生しているのが普通です。
そのため、コナラやクヌギが主体の雑木林と比べて、やや雑然とした印象を受けます。

また、かつては高木層にアカマツが多かったようですが、マツ枯れの影響なのか、現在では林冠にアカマツが出現することは稀だと思います。

低木草ではヤマツツジ、ムラサキシキブ、コウヤボウキ、マルバウツギ、クロモジなどの落葉樹に加えて、スダジイやアラカシ、シロダモ、ヒサカキ、アオキなどの常緑樹も高い頻度で出現します。
また、林分内に足を踏み入れられないほど、アズマネザサが高密度で繁茂していることもあります。

草本層は雑木林で広く見られるシロヨメナ、ケスゲ、シラヤマギク、タイアザミなどに加えて、常緑樹の実生も多数出現します。
さらに、三浦半島では住宅地と森林が接していることもあり、トウネズミモチ、マテバシイ、ヒイラギナンテンなど逸出した庭園樹の実生が見られることもあります。

人工林

スギ人工林・ヒノキ人工林

三浦半島のスギ人工林やヒノキ人工林は、その大半は手入れがされておらず、荒れ果てている林分が少なくありません。
横浜市南部や鎌倉市ではボランティアが間伐している林分もありますが、全体から見るとごく僅かです。

低木草はアオキやシロダモが繁茂していることが多いですが、イヌビワも比較的高頻度で出現します。
草本層ではベニシダやミゾシダ、イノデ類、リョウメンシダが出現することが多いです。

マテバシイ植林

三浦半島南部で、丘陵地の尾根や斜面上部で広く見られます。
大楠山や三浦富士、久里浜周辺などでは、常緑樹林に見える林分の大半がマテバシイ植林だと思われます。

高木層はほぼマテバシイ1種だけですが、風害などでギャップが生まれるとオオシマザクラやハゼノキ、カラスザンショウなどが混生することもあります。

低木草はマテバシイの萌芽を除いてほぼ皆無なので、林分内の見通しが非常に良いのが特徴的です。
草本層はタブノキやシロダモの実生に加えて、ヤブランやナガバジャノヒゲが点在する程度です。

一方で、林内にはコクランやタシロラン、ササバギンラン、アキザキヤツシロラン、シュスランなどのラン科植物が出現することがあり、三浦半島の中でも独特な植生となっています。